声はすれども姿は見えず。なんて言い方がありますが、
この逆に姿はわかってるんだけど、声(サウンド)がわからないと言うのが
『カルトGS界』(?)には結構あるんですね。
その際たるものが
『スカートをはいてデビューした
クーガーズ』、
『ピーコック革命のピーコックス』
『デカリボンのライオンズ』etcです。
これらのGSは雑誌等の『GS特集』などというと、決まって
『奇抜な衣装でデビューした』と紹介されるのですが、
果たして、彼らはどんな曲をやっていたのかと言うと、即座に答られる人は
相当のGSオタクだけでしょう。
『テクテク天国』『レッツ・ゴー・ピーコック』『すてきなエルザ』がそれぞれ
デビュー曲なんですが、どうです?
すぐに思いつきましたか?
で、前置きが長くなりましたが『ザ・ライオンズ』が
今回のコレクションです。
彼らは68年3月にキャピトルから
『すてきなエルザ』『信じておくれ』のカップリングで
デビューしています。
そのデビューに当たっては彼らの
デビューポスターを懸賞金つきで一般から公募したり大々的に先行パブを
打ったりと、私もデビューのかなり前からその存在は知っていました。
命名の由来も、人気絶頂の『タイガース』を凌駕すべく、『虎』より強いのは
『百獣の王・ライオン』だから『ライオンズ』にしたのだ。デビュー曲は
『すてきなエルザ』だ、
などと広く知られて
いました。
ところが、冒頭でも
書いたように、姿は見えども
声はせず。
私がそのデビュー曲と出会うのはそれから32年と言う気の遠くなるような
時間が必要だったのです。
では、、32年間どうしていたのかと言うと、
はっきり行って忘れていたのです。ハハハ、ところが、思いがけず彼らの音源を
耳にする機会を得たのです。
それは91年頃だったでしょうか、『東芝EMI』より発売されていた
『ザ・シングル盤・GS編・VOL1』を偶然見つけたところ、その中に彼らの
セカンドシングル『ハイウエイ小唄』
『よいこのゴーゴー』が収録されていたのです。
あの有名な『ライオンズ』のセカンドシングルが
『ハイウエイ小唄』『よいこのゴーゴー』とは・・。
びっくりしましたよ。
ジャケットには彼らの姿さえ映っていません。
『デカリボン』の『ライオンズ』よ何処?です。
で、内容はと言えば子供向けの交通安全キャンペーンソングです。
もう、歌詞を紹介するのも恥ずかしいんですが
(歌ってた本人たちはもっと恥ずかしかったと思いますが)
一番だけ紹介すると『♪ひとつ乗ろうか、一走り〜、スイ、今日のデートは
エアポート。羽田、芝浦、光る海〜、スイ、スイット、ゴーゴー、一号線。
横向いちゃだめよ、真っ直ぐ行ってね〜、わき見しちゃだめよ、真っ直ぐ見てね!』
ってこれじゃあ子供向けじゃなくって若者向けだろ!
子供が車に乗って羽田空港までデートに行くか!と、突っ込みのひとつも
入れたくなりますよね。当時、結婚したてのかみさんに『何でコレがGSなんだ!』
と言われたものです。なんにしろ、小唄はないでしょ、小唄は・・。
しかし、当時GSは反社会的というイメージが強い時代でしたから、それを
打ち消すために交通安全キャンペーンに一役買って、いいところを見せようと
したのかもしれませんね。
そのような例は他にもあって、交通安全ではないですが『テンプターズ』なども
『母親同伴コンサート』なんてのをやってましたね。
『母親とも安心して見にいけるバンド』を目指したんでしょうか?
『お母さん』なんていう曲はまさにそれように作ってますよね。
最もドラマーの大口さんは、後年インタビューの中で『曲のよしあしは別にして、
いつもはストーンズぶってんのに『お母さん』はないだろう』とメンバー同士でも
議論になったと語っています。
おっと、またまた得意の回り道が始まったぞ。
『真っ直ぐ行ってね!』ですな。で、『ライオンズ』です。
こうなると、どうしてもデビュー盤の『すてきなエルザ』が聞きたくなるのは
人情でしょう。もう、頭の中では幻の『エルザ』が駆け回っています。
しかし、GS関係のCDは出たとたんに廃盤なんてのもあります。
『すてきなエルザ』までさらに数年の歳月が必要でした。
そんなある日、中野のとある中古CD屋で『ザ・シングル盤・GS編・VOL2』を
発見したのです。私は思わずそのCDをひったくりました。ありましたありました!
『すてきなエルザ』が。長年待ち望んだ『ライオンズ』の『すてきなエルザ』が。
それだけで感動です。
もう、その日は仕事もそこそこに、うちに飛んで帰って
早速CDをセット。
他の曲は飛ばしてスタート。そして、流れてくるイントロ。
タカタンタンとスネア、♪チャ〜ララ、チャ〜ララ、
チャ〜ララ、チャラララと、
キーボードの好ましいショボイ音。隋奏する適度のファズギター。
いいぞいいぞ、イカスジャナイカ。GSらしいノリ。ドラムの回しがダカダカダン。
続いてヴォーカルが『♪好きなんだ〜』オブリガードが(好き〜)
『とてもエル〜ザが〜』(エルザ〜)と、ここまで来てぶっ飛びました。
(エルザ〜)が凄いんです。どう凄いのかと言うと、『カルトGS』の神様、
黒澤氏の表現を借りれば『素っ頓狂な合いの手』。
そう、まさに調子っぱずれの間抜けな(エルザ〜)。この瞬間デビュー曲
『すてきなエルザ』とセカンドシングル『ハイウエイ小唄』のギャップの意味が
わかった様な気がしました。黒澤氏の言をもう少し引くと『素っ頓狂な合いの手
がせっかくの名曲を台無しにしている』。さすが神様。
ずばり問題点を指摘していらっしゃる。コレじゃ、売れなかったんだろうなあ・・。
事実、売れなかったらしいです。3万枚だそうです。
3万枚なら売れなかったのか?まあ、資料がはっきりしませんが、
『シャープ・ホークス』の『遠い渚』が10万枚。『ビーバーズ』の『初恋の丘』が
8万枚で小ヒットといわれた時代ですから、やはり、売れなかったんでしょうね・・。
しかも、大金をかけて売り出したのに・・。もう、お前ら知らん!と言うわけで
セカンドシングルが『ハイウエイ小唄』になった・・と。どうもこういうことらしい。
罰ゲームだなコレじゃあ・・。
では、すべて『ライオンズ』が悪いのか?
プロデューサーやディレクターに責任はないのか?
なぜ、あんな『素っ頓狂な合いの手』をOKしたのか?
その辺のところを次回で考えてみようと思うって、
文 写真提供: 秦 義人